国際税理士が考える『シンガポール会社設立前に知っておきたい4つの国際税務の話』
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国際税理士が考える『シンガポール会社設立前に知っておきたい4つの国際税務の話』
弊社では、シンガポールでの会社設立や現地での会計・税務のサポートを行っておりますので、日ごろからシンガポール進出・移住のご相談を頂く機会が多くあります。
シンガポール現地法人の会社設立自体は比較的容易ですので、情報が揃ってさえいれば、即日会社設立することも実務的には可能です。
巷には、シンガポールに会社を作りさえすれば節税できる、などといった情報も溢れているため、安易にシンガポールに会社を作ってしまっているケースも多くあります。
そこで、シンガポール税務と日本の税務、国際税務に携わり、また60社以上のシンガポール法人設立の経験をさせて頂いた身として、
基本的で当たり前の話といえばそれまでですが、絶対に知っておいて頂きたい国際税務の基本、『シンガポール会社設立前に知っておきたい4つの国際税務の話』をご紹介したいと思います。
細かく説明すると非常に複雑になってしまう ①移転価格税制、②タックスヘイブン対策税制(法人)、③タックスヘイブン対策税制(個人)、④PE課税について、事例を交えながらご紹介いたします。
① 【移転価格税税制の事例】
シンガポール子会社を経由した取引スキームにすれば利益を移転できる、は危険
② 【タックスヘイブン対策税制(法人)の事例】
シンガポール子会社を直接契約主体にしてしまえば大きな節税ができる、は危険
③ 【タックスヘイブン対策税制(個人)の事例】
個人株主でシンガポール法人を設立すれば大丈夫、は危険
④ 【PE課税の事例】
海外に住む個人に株主になってもらったら大丈夫、も危険
① シンガポール子会社を経由した取引スキームにすれば利益を移転できる、は危険
『シンガポールに100%子会社としてペーパーカンパニーを設立して、今までの取引ルートの中にシンガポール子会社を介入させれば、一部シンガポールに利益を移転できるのではないか?』
と考える方もいるかもしれません。
例えば、今まで日本本社から取引先に120円(原価100円)で販売していた場合、まず日本本社からシンガポール法人に110円で販売し、シンガポール法人が取引先に120円で売れば、結果として取引先は今までと同じ価格で購入できますし、日本で計上されていた利益は20円から10円に減り、税率の低いシンガポールに利益が10円移転することになるから、これはいい。という話です。
ここで問題になってくるのは『移転価格税制』です。
移転価格税制とは、実際の取引価格ではなく、独立企業間において通常設定される価格(独立企業間価格)を用いて、その価格をもとに課税所得を計算するという税制です。
つまり、親子会社間で勝手に決定した『実際の取引価格』ではなくて、『独立した第三者と取引した場合の価格』で取引を行ったものとして、日本で税金を計算する必要があるということです。
上記の例ですと、シンガポール子会社は単なるペーパーカンパニーですので、何らシンガポールには機能を有していないので、シンガポール法人への販売価格110円という価格は独立企業間価格とは認められず、100円で販売(つまり、今までと同様に日本では利益が20計上される)したとして課税すべき、と言えるでしょう。
※ 実務上はこの独立企業間価格がいくらかということが問題になりますが、ここではわかりやすく解説するため説明を省略しています。
では、『親子会社間での取引だと問題になるのであれば、いっそのことシンガポール法人と取引先との直接契約にして、日本本社は一切関わらなければ、グループ全体の実効税率が大幅に下がるのでは?』
という考えはどのような点で問題があるでしょうか。
② シンガポール子会社を直接契約主体にしてしまえば大きな節税ができる、は危険
取引先とシンガポール子会社との直接取引に変更すれば、今まで日本で計上されていた利益が、全てシンガポールに移転するのでは?という考えです。
確かに、日本本社とシンガポール子会社との取引ではないので移転価格税制はどうやら避けられそうですが、ここで問題になるのは『タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)』です。
タックスヘイブン対策税制とは、居住者が発行済み株式等の50%超を所有する外国法人(『外国関係会社』という)で、その現地における法人所得に対して課される税負担が20%未満であるもの(『特定外国子会社等』という)について、その保有する株式の持分に対応する留保所得をその居住者の所得とみなしてその居住者の所得に合算して課税する制度です。
※ なお、タックスヘイブン税制は改正が予定されています。
もちろん、シンガポールなどの軽税率国に子会社を設立すれば、必ず合算課税されてしまうわけではなく、4つ適用除外基準(改正後は経済活動基準)が設けられています。
が、今回のケースではペーパーカンパニーですので、適用除外要件を満たせるはずもありませんので、合算課税の対象となる可能性があります(平成29年度税制改正後はペーパーカンパニーの場合、経済活動基準を満たすかどうかに関係なく、合算課税の対象となる予定です)。
つまり、シンガポール子会社に計上された利益について、日本本社の所得と合算して日本で課税する必要があるということです。
では、『そもそも、日本本社との資本関係はなくして、個人株主としてシンガポール法人を設立すれば大丈夫なのでは?』と考える方もいるでしょう。
③ 個人株主でシンガポール法人を設立すれば大丈夫、は危険
個人株主でシンガポール法人を設立すれば大丈夫は危険です。
上記で取り上げた『移転価格税制』『タックスヘイブン対策税制』ともにひっかかる可能性があります。
まずは、『移転価格税制』です。
移転価格税制は法人のみに適用される税制ですので、日本法人とシンガポール法人間で取引がある場合には、対象になる可能性があります。
それは、移転価格税制の対象範囲となるかどうかは、単なる形式的な資本関係(親子会社や兄弟会社)だけで判断されるわけではなく、実質支配関係によっても判断されるためです。
例えば、「他方の法人がその事業活動の相当部分をその一方の法人の取引に依存して行っていること(事業基準)」なども実質支配関係に含まれてきます。
ですので、資本関係がなく、個人株主で法人を設立したとしても、移転価格税制の対象となる可能性はあるということです。
次に『タックスヘイブン対策税制』です。
タックスヘイブン対策税制は居住者が対象となるため、日本の内国法人だけではなく、日本に居住する「個人」も対象となります。
従って、個人株主としてシンガポールに会社を設立したとしても、状況によってはシンガポール現地法人に溜まった利益を、個人の確定申告で合算課税(雑所得として)しなければならない可能性があります。
④ 海外に住む個人に株主になってもらったら大丈夫、も危険
では、、、、『外国法人や海外に住む個人に株主になってもらったら?』
ここまでいくともはや、、という感じですね。
様々な問題点がありそうですが、例えば ③と同様に移転価格税制の対象になる可能性がありますし、また、シンガポール法人が日本でPE(恒久的施設)認定される可能性なども考えられます。
シンガポール法人で計上されている売上げは何らかの貢献がどこかでされていることになりますが、それはシンガポールではなく日本の自宅を拠点とした事業に起因して発生している売上げかもしれません。
簡単にわかりやすく説明しますと、その場合『日本の自宅』はシンガポール法人の日本支店があるのと同じ状況なので、外国法人の支店と同様に、日本で納税してくださいね、といったイメージです。
シンガポール法人が日本で納税する必要があるということです。
まとめ
4つの基本的な国際税務の話をご紹介させて頂きましたが、実際にはシンガポール進出時には国際税務の論点だけでも検討しなければならない事項は多岐に渡ります。
今回はご紹介できませんでしたが、シンガポールに移住して株式譲渡すれば節税できますか?といった情報も鵜呑みにしてはいけません。
この質問に回答している記事はこちらをご覧下さい。
つまり、シンガポールで会社を作れば節税できますよ!という情報は、まずはかなり疑って頂くことをお勧め致します。
また、上記のようなスキームは取り締まられるべきなのは言うまでもありませんが、一方で、その取り締まるための税制の悪い副産物として、きちんと海外の現地で事業を行っているような場合でも、これらの税制により課税される可能性がある、という現実があります。
それでは本末転倒になってしまいます。
従って、納税者側としても『タックスヘイブン対策税制』などの適用を予期せず受けないように対策をする必要があると言えます。
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