シンガポールに移住して株式譲渡をすれば『非課税』は本当か?
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シンガポールに移住して株式譲渡をすれば『非課税』は本当か?
シンガポールに移住して株式譲渡をすれば『非課税』というのは、正解でもあり、誤りでもあります。どのような場合に『非課税』となり、どのような場合は課税されてしまうのか、その概要を見ていきたいと思います。
国をまたいだ取引ですので、【国際税務】になります。つまり、日本の国内法、シンガポールの国内法、さらには日本・シンガポール租税条約を確認して最終的な判断をする必要があります。
非居住者が株式譲渡をした場合【日本国内法における取扱い】
まずは、日本の非居住者が株式譲渡をした場合の日本国内における規定を確認する必要があります。
日本国内に恒久的施設(PE)を有しない「非居住者」が株式等を譲渡した場合、次のいずれかに該当する所得については「国内源泉所得」として課税対象となります。逆に、下記のいずれにも該当しなければ日本での課税対象にはなりません。
✓買集めに該当する株式の譲渡所得
✓事業譲渡類似株式の譲渡所得※
✓税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式等の譲渡所得
✓特定の不動産関連法人の株式の譲渡所得
✓非居住者が日本に滞在する間に行う内国法人の株式の譲渡所得
✓日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡所得
※事業譲渡類似株式の譲渡とは、下記の要件を満たす株式の譲渡を言います。
①譲渡年又は譲渡事業年度終了の日以前3年内のいずれかの時において25%以上の株式を特殊関係株主等が保有
②譲渡年又は譲渡事業年度において、特殊関係株主等が譲渡した株式数が5%以上
(参考)国税庁ウェブサイト(外部)
シンガポール居住者が株式譲渡をした場合【シンガポール国内法の取扱い】
シンガポール国内法においては、株式譲渡がキャピタルゲインに該当する場合は「非課税」とされています。
キャピタルゲインに該当するかどうかについては明確な規定はありませんが、過去の判例においては保有期間や取引の継続性、株式購入時の動機、売却理由などを勘案して判断されることとされています。
なお、2012年6月1日以降の株式売却については、「売却時までの24ヶ月間以上、継続して20%以上を保有している場合」は税務上キャピタルゲインに該当する、ということが明確化されました。ただし、これに該当しない場合は、ただちに「課税」というわけではなく、上記の通り、取引の継続性等から総合的に判断されることになります。
(参考記事)シンガポールではキャピタルゲインは非課税?
シンガポール居住者が株式譲渡をした場合【日星租税条約における取扱い】
日星租税条約第13条に譲渡収益に係る規定があります。その一部をご紹介します。
『第4項(a) 一方の締約国内に存在する不動産を主要な財産とする法人の株式又は一方の締約国内に存在する不動産を主要な財産とする組合、信託若しくは遺産の持分の譲渡から生ずる収益に対しては、当該一方の締約国において租税を課することができる。
(b) 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、次のことを条件として、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(i) 当該譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む。)の数が、当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも25%であること。
(ii) 当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも5%であること。
第5項 1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者である締約国においてのみ租税を課することができる。』
日本でもシンガポールでも課税されない可能性も起こり得る
第5項にある通り、第13条1項から4項に規定する譲渡に該当しなければ、原則として居住地国においてのみ、課税することができるとされています。つまり、第5項に該当する場合、シンガポール居住者が株式譲渡をした場合はシンガポールでのみ課税されることになります。上述の通り、シンガポールではキャピタルゲインについては非課税ですので、日本でも課税されず、シンガポールでも課税されないということが起こり得ます。
租税条約が有利な場合は租税条約を優先適用
国際税務の基本的な考え方になりますが、国内法と租税条約を照らし合わせて、租税条約が有利となる場合には原則として、租税条約を優先適用できることになります。
シンガポール居住者が日本所在の株式を譲渡する場合に注意頂きたい例をご紹介したいと思います。
例えば、事業譲渡類似株式の要件が、日本の国内法と日星租税条約の規定では少し異なっています。日本国内法では事業譲渡類似株式として日本で課税されることになっている場合でも、日星租税条約では第13条4項の要件には該当せず(結果として第5項に該当)、日本では課税できない、という結論になることもあるため注意が必要です。
最終的な判断は状況により異なってきますので、必ず専門家にご相談下さい。
2015年7月1日から適用開始された【国外転出時課税制度】
これまで、シンガポールに移住した後に株式を売却した際の課税関係についての概要を見てきました。
上述の通り、シンガポール居住者が日本所在の株式を譲渡した場合には日本でもシンガポールでも課税されないということが起こり得ます。
しかし、シンガポール居住者になるためには日本から出国する必要があり、その出国の際に課税するという『国外転出時課税制度』が平成27年度税制改正により設けられましたので注意が必要です。
2015年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税が課税されることになりました。
つまり、シンガポール居住者として売却すれば非課税となる場合でも、『国外転出時課税制度』の対象になる場合は出国時にその株式の含み益に対して日本で課税される可能性があるため、必ず売却時の課税関係だけではなく、『国外転出時課税制度』についても検討する必要があります。
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