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会計検査院、海外の中古不動産投資を利用した節税スキームを指摘

会計検査院、海外中古不動産を利用した節税スキームを指摘

2016年11月7日、会計検査院が平成27年度決算検査報告を作成し、これを内閣に送付しました。

その中には、「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について」という報告が含まれています。

それは、富裕層による海外中古不動産を利用した節税スキームに待ったをかける指摘になっています。

会計検査院による指摘事項は、その後税制改正に繋がる過去の例も多く、今後の動向を注視する必要があります。

そもそも、海外不動産を利用した節税スキームとはどのようなスキームなのでしょうか。

 

不動産所得を利用した節税スキームの概要

現行の所得税法上、不動産所得の性質を利用して節税することが可能になっています。

不動産所得は、その貸付けによる賃貸収入から必要経費を控除した金額とされていますが、その必要経費が収入を上回れば損失が生じ、不動産所得はマイナスになります。

不動産所得は、一定の場合を除き、損失の金額を給与所得や事業所得などの総合課税に属する他の所得金額から控除することができます。

不動産所得の必要経費には、建物等の減価償却費も含まれますので、減価償却費を多く計上できれば、不動産所得に大きな損失が生じ、給与所得等と相殺して所得を減らす、つまり所得税額を減額する効果があります。

日本の所得税率は最大45%であるため、最大で損失の額 x 45%の節税効果があることになります。

そもそも、日本の所得税法上、日本の居住者は国内だけでなく国外で生ずるすべての所得に対して所得税が課されることとなっています。

いわゆる、「全世界所得課税」と言われるもので、これだけを見ると所得税額が増えるような気がするかもしれませんが、日本国外の不動産であったとしても損失が生じていれば、日本国内の給与所得等と相殺され、逆に節税効果があることになるのです。

 

中古建物に係る減価償却費の計算方法

なぜ海外不動産は節税スキームとして使われるのかを理解するためには、次に減価償却費の計算方法を確認する必要があります。

建物の法定耐用年数は、構造別に下記の通りとなっています。

 

 ・ 木造又は合成樹脂造: 22年

 ・ レンガ造、石造又はブロック造: 38年

 ・ 鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造: 47年

 

そして、中古の建物については、法定耐用年数を用いることに代えて、使用可能期間の年数を見積もる方法を採用することができます。

さらにその使用可能期間の年数を見積もることが困難な場合には、次の算式により計算した年数を耐用年数とすることができるとされています(簡便法)。

 

<法定耐用年数の全部を経過した中古資産>

  法定耐用年数 x 20 / 100

 

<法定耐用年数の一部を経過した中古資産>

  法定耐用年数 – 経過年数 + 経過年数 x 20 / 100

 

法定耐用年数の全部を経過した中古資産について、簡便法を用いた場合の耐用年数は下記の通り、とても短い年数となります。

つまり、短期間で多額の減価償却費を計上できることになります。

 

<法定耐用年数の全部を経過した中古の建物 (簡便法の場合)>

 ・ 木造等: 22年 -> 4年

 ・ レンガ造等: 38年 -> 7年

 ・ 鉄骨鉄筋コンクリート造等: 47年 -> 9年

 

なぜ国内ではなく海外の不動産なのか?

上述の通り、中古の建物についてはとても短い耐用年数になる可能性があることがお分かり頂けたかと思います。

それでは、なぜ国内ではなく海外の不動産なのでしょうか?

会計検査院の報告書によると、「日本及び欧米の建物を取り巻く状況についてみると、住宅を建築してから滅失するまでの平均年数は、国土交通省の推計によると、日本は約32年であるのに対して、アメリカ合衆国は約66年、英国は約80年となっている」とのことです。

さらに、「日本の戸建住宅は、築後20年までで価値が大きく低下すると言われている一方で、アメリカ合衆国や英国の戸建住宅は、中古住宅と新築住宅との価格差が小さい状況になっている」とのことです。

つまり、アメリカ合衆国や英国であれば、築50年超でも価値のある住宅が存在し、そのような住宅を購入することにより、日本の所得税法上、多額の減価償却費を計上でき、減価償却費が計上できなくなれば、すぐに売却するというスキームが生まれたのです。

 

会計検査院の所見

冒頭で述べた、会計検査院のレポートの中で最後に下記の通り、述べられています。

「国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していない恐れがあると認められる。そして、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上することにより、不動産所得の金額が減少して損失が生ずることになり、損益通算を行って所得税額が減少することになる。」

さらに、「本院の検査によって明らかになった状況を踏まえて、今後、財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。」と述べられています。

前述の通り、会計検査院の指摘から税制改正へと繋がる過去の事例を見る限り、海外中古不動産の耐用年数について税制改正がされるのも、遠い話ではないかもしれません。

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