【海外移住】ビザの種類は税務上の「居住者・非居住者」判定に影響するか?
日本の税務上の居住者・非居住者
日本の所得税法において、『居住者』とは、国内に『住所』を有し、又は、現在まで引き続き1年以上『居所』を有する個人をいい、『居住者』以外の個人を『非居住者』と規定しています。
それでは、ある人の滞在地が2か国以上に渡る場合はどのように判断されるのでしょうか?
その住所がどこにあるかを判定するためには、過去の判例からも「住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実」によって判断すると解されています。
※税務上の居住者・非居住者の考え方の詳細はこちらをご覧ください。
これらの客観的事実に基づき総合的に判断することになるため、日本の所得税法上、滞在日数のみによって判断することができないということです。つまり、日本国外に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても、日本の居住者に該当する可能性があるというわけです。
この通り、税法上の居住者・非居住者は非常に重要であるにも関わらず、条文上は定義が非常に曖昧であることから度々裁判で争われることがあります。今回は海外移住前にぜひ知っておきたい居住者・非居住者判定の知識を一つご紹介します。
それは、移住先国で取得する「ビザの種類」は日本の税法上の「居住者・非居住者」に影響を及ぼすか?についてです。ここで重要になるのは居住者・非居住者判定の判断要素の一つとして挙げられている「職業」です。
「職業」は重要な判断要素の一つ
上述のとおり、2か所以上に住所を有する場合には、「職業」について重要な判定要素の一つとされています。つまり、どの国で職業を有しているか?どのような職業に就いているか?ということです。
実は、所得税法施行令 第15条1項にこの「職業」の考え方、取扱いについて規定があります。
この規定に基づくと、例えばサラリーマンの方で海外に転勤する場合(会社の命令により)は、一年未満の転勤であることが明らかな場合を除いて、「継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有する」ものとして、税務上の非居住者に該当すると考えられます。
しかし、あくまでも推定規定ですので、他の客観的事実により結果は変わってる可能性もあります。例えば、中小企業のオーナー社長が海外に移住する場合にはそれが会社の命令ではなく、主に個人的な節税目的であることが多いため、そのままこの施行令を適用して「非居住者」に該当する、という判断をするのは非常に危険と言えるでしょう。他の客観的事実をもとに総合的に判断する必要があります。
長期滞在ビザの弱点
さて、「職業」は重要な判定要素の一つであることは上述のとおりですが、なぜ「長期滞在ビザ」ではリスクを伴うのか?
それは、移住先の国で職業を有しているということを証明できない可能性が高いためです。
最近では国税不服審判所の裁決(裁決年月日:平成29年1月23日)で、国外に年間250日以上滞在していたにも関わらず日本の居住者とされた事例がありました。
それは、下記のような背景があったためですが、これら以外の理由として「リタイアメントビザ」により居住していたことも挙げられていました。
・国内よりも国外における滞在期間が長いものの、国内の肩書住所地を住民票上の住所として定めていること
・当該住所地所在の居宅(本件居宅)を所有し、国内滞在中は本件居宅において起居していたこと
・金融資産の大部分は国内の金融機関に保有している一方、国外資産はほとんど有していないこと
・当該住所地を自己の住所として国民健康保険に加入していること
・請求人と生計を一にする妻は国外に出国しておらず本件居宅に居住していたことなど
つまり、総合的に判断する上で「ビザの種類」も考慮される可能性があるということです。
あくまでも実質で判断しますので、リタイアメントビザなどの長期滞在ビザは絶対アウト!、就労ビザを取りさえすれば大丈夫!、というものではなく(最近では「就労ビザ」というカテゴリーであったとしても、実態とかけ離れているものもあるそう)、就労ビザの方がベターという意味合いであり、最終的には就労の実態も含めて総合的に判断されることになりますのでご注意下さい。
※本記事は2018年5月21日時点の情報ですのでご留意ください。