国際税務コラム

シンガポール雇用法・ビザ

【シンガポール就労ビザ】Employment Pass ~2018年最新の動向~

 

近年、益々審査が厳格化しているEmployment Pass(以下EP)について、最近の審査の動向も踏まえながら、取得要件や却下となり得る要因をご紹介します。

 

Employment Passの定義と取得要件

EPはシンガポールで就労している駐在員、現地採用の日本人の多くに発給されており、主に専門職、管理職に就く方を対象としているビザです。また、日本での事業を基にシンガポールで新たに事業を始めたいという個人事業主も、シンガポール法人設立後、自身のEP を取得するのが一般的です。

EPは初回の申請で最長2年の在留期間が付与され、更新時は最長3年の延長が認めらます。

 

以下がMOMのウェブサイトで公表されているEPの取得要件です。

 ① シンガポール国内でオファーがあること

 ② 管理職・専門職または特殊な仕事に従事すること

 ③ 月給がS$3,600以上であること 

 ④ 大学卒業もしく専門的な資格を有していること

 

注:月給S$3600でEPが許可されるのは、シンガポール政府が指定している上位大学を卒業した就業経験のまだ浅い新卒の方に限られ、そうでない場合は、より高い給与額が求められますのでご留意ください。また、申請者の年齢が高くなるにつれ、最低月額給与は大きく引き上げられ、給与に見合った職務経験を有しているか、あるいはシンガポール人と競合しない何らかのスキルを有しているかどうかがチェックされます。

 

なお、EPを取得するための最低給与額は、MOMが提供している以下の診断ツールで事前に調べることが可能です。実際の審査では、雇用元企業の状況も含め総合的に審査されるため、決して結果を保証するものではありませんが、少なくとも簡易診断で却下となった場合には実際の審査も却下される確率が高いため、ひとつの目安にはなると言えます。

 

MOMウェブサイト(外部)

 

次に、近年多く見られる却下理由をご紹介します。

 

ケース1 雇用元企業の財政状況が悪い

資本金と過去の売上状況から、雇用元企業がEP申請者の給与を支払える体力がないと判断した場合に却下されるケースがあります。特に申請者の給与が高く設定されていると指摘される確率が高まり、追加資料として直近の「決算書」、「事業計画書」の提出を求められます。また、新設法人の場合は資本金が不十分であったり、事業内容から見て企業の成長が見込めないという理由で却下されるケースもあります。

 

ケース2 シンガポール人の雇用をしていない、もしくは雇用しようとする努力が見受けられない

シンガポール政府は従業員の3分の2以上をシンガポール人(及び永住権保持者)で構成されることを理想としています。特に設立してから数年経過しているにもかかわらず日本人のみでシンガポール法人を経営している場合には指摘される可能性が高まります。近年の審査では新設法人でさえ「人員計画書」の提出を求められるケースがあり、シンガポール政府がいかに自国民の採用を優先しているのかが伺えます。

 

ケース3 当該申請人を雇用する必要性が見られない

シンガポール政府は外国人労働者への依存を少しでも減らすために、25歳以上のすべての国民に対して教育や研修を受けるための費用を支給するなど、自国民の高度人材化に注力を注いでいます。そのため、EP申請者がシンガポール人では代替えできない人材であるという具体的な説明がこれまで以上に重要なものとなってきます。日本語を自由自在に操り、日本の商習慣に精通しているシンガポール人も増えてきている今日、日本人顧客を相手にビジネスを行うので日本人の雇用が必要不可欠であるという説明は今後まかり通らなくなってくることが予想されます。

 

ケース4 雇用主が従業員のSDL(Skill Development Levy)を支払っていない

SDLはシンガポールで就労する全ての労働者に課されている会社負担の強制徴収金であり、当然EP保有者も支払いが義務付けられています。稀にこのSDL未払いについてMOMから指摘され、支払いが完了するまで審査も滞ったままというケースもあります。特にシンガポール人や永住権保持者を雇用していない企業や個人事業主の方は納付を失念しがちですので、まだ支払をしていない場合は下記ウェブサイトから速やかに納付されることをお勧めします。

 

Skills Futures SG ウェブサイト(外部)

 

もし却下となってしまったら

もし申請が却下されてしまった場合には、まず却下となった原因を分析することが重要です。その上で、却下となった申請をもとにMOMに不服を申し立てる「アピール」を行うのか、もしくは新しく書類を作成し直して「再申請」を行うのかを検討する必要があります。明確な理由が分からないまま「アピール」や「再申請」を行っても再び却下される可能性がありますので、どちらが適しているのか判断がつかない場合は、早めに専門家に相談されることをお勧めします。 

 

執筆者:Taeka Kikui

 

※本記事は2018年7月9日時点の情報ですのでご留意ください。