海外移住者などの非居住者が内国法人(非上場会社)から配当を受領した場合の源泉徴収
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非居住者が配当を受け取った場合の日本における源泉徴収
海外移住等により日本の非居住者となった方が非上場会社である内国法人から配当を受け取った場合、その配当が国内源泉所得に該当すれば、日本で源泉徴収されることになります。
つまり、日本で源泉徴収義務があるかどうかは、その配当が『国内源泉所得』に該当するかどうかが重要になります。まずは、国内源泉所得として源泉徴収の対象となる『配当の範囲』について確認したいと思います。
(参考)日本の所得税法における居住者・非居住者の判定について
※配当ではなく、非居住者が株式を売却する場合の取扱いについては、こちらの記事をご参照ください。
国内源泉所得の範囲
平成29年分以降の「国内源泉所得」の範囲は下記の通りです。
配当はこのうち、9の内国法人から受ける剰余金の配当に該当するため「国内源泉所得」に該当する。つまり、日本の所得税法上、非居住者も内国法人から受領する配当は日本で課税対象になる。
【国内源泉所得の範囲】
- 恒久的施設帰属所得
- 国内にある資産の運用又は所有により生ずる所得
- 国内にある資産の譲渡により生ずる所得
- 組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生ずる利益で、その組合契約等に基づいて配分を受けるもののうち一定のもの
- 国内にある土地、土地の上に存する権利、建物及び建物の付属設備又は構築物の譲渡による対価
- 国内で行う人的役務の提供を事業とする者の、その人的役務の提供に係る対価
- 国内にある不動産や不動産の上に存する権利等の貸付けにより受け取る対価
- 日本の国債、地方債、内国法人の発行した社債の利子、外国法人が発行する債券の利子のうち恒久的施設を通じて行う事業に係るもの、国内の営業所に預けられた預貯金の利子等
- 内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等
- 国内で業務を行う者に貸し付けた貸付金の利子で国内業務に係るもの
- 国内で業務を行う者から受ける工業所有権等の使用料、又はその譲渡の対価、著作権の使用料又はその譲渡の対価、機械装置等の使用料で国内業務に係るもの
- 給与、賞与、人的役務の提供に対する報酬のうち国内において行う勤務、人的役務の提供に基因するもの、公的年金、退職手当等のうち居住者期間に行った勤務等に基因するもの
- 国内で行う事業の広告宣伝のための賞金品
- 国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく年金等
- 国内にある営業所等が受け入れた定期積金の給付補てん金等
- 国内において事業を行う者に対する出資につき、匿名組合契約等に基づく利益の分配
- その他の国内源泉所得
国内源泉所得となる配当とは?
源泉徴収の対象となる配当等とは、次に掲げる配当等をいいます。
- 内国法人から受ける所得税法第24条第1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は基金利息
- 国内にある営業所に信託された投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除きます。)又は特定受益証券発行信託の収益の分配
※措法第9条の6の規定により、外国特定目的信託の利益の分配及び外国特定投 資信託の収益の分配については、内国法人から受ける剰余金の配当とみなされます(2016年4月1日以後廃止)。
従いまして、非居住者が『外国法人』から受ける剰余金の配当等や『国外』にある営業所に信託された投資信託で一定のものは、日本の国内源泉所得には該当しないため、日本での源泉徴収は不要になります。
(参考)国税庁『平成28年版 源泉徴収のあらまし(第10 非居住者又は外国法人に支払う所得の源泉徴収事務)』
国内源泉所得に該当する場合の源泉徴収税率は?
国内にPEを有しないことを前提とすると、非居住者(個人)が非上場会社である内国法人から配当を受領した場合、20.42%の源泉徴収のみで課税関係が完結する源泉分離課税の適用を受けることになる。
租税条約により税率が減免される可能性もある
支払を受ける非居住者等の居住地国と日本との間に租税条約が締結されている場合には、その条約で定められている税率(限度税率)に軽減されることになります。
租税条約の適用を受けるためには、租税条約に関する届出(様式1 配当に対する所得税及び復興所得税の軽減・免除)を、最初に配当の支払いを受ける日の前日までに、配当の支払者を通じて所轄税務署長に提出する必要があります。
なお、上場株式等の配当の場合には、上記に代えて、租税条約に関する特例届出書(様式1-2 上場株式等の配当等に対する所得税及び復興特別所得税の軽減・免除)を配当の支払取扱者に提出することになります。
シンガポール居住者への配当の場合
例えば、シンガポール居住者であれば、日星租税条約に下記の規定があるため、届出を提出することにより15%又は5%の税率が適用できる可能性があります。つまり、日本の国内法では20.42%の源泉が必要とされているものの、租税条約の適用を受けることにより15%又は5%の税率に軽減されます。
<日星租税条約 第10条(配当)一部抜粋>
1.一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
2.1の配当に対しては、これを支払う法人が居住者とされる締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該配当の受領者が当該配当の受益者である場合には、次の額を超えないものとする。
(a) 当該配当の受益者が、利得の分配に係る事業年度の終了の日に先立つ6箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の少なくとも25%を所有する法人である場合には、当該配当の額の5%(b) その他のすべての場合には、当該配当の額の15%