【海外取引に係る源泉所得税の実地調査状況】非居住者又は外国法人への使用料の支払いは要注意
目次
平成26事務年度 法人税等の調査実績の概要
近年、国際課税に対する調査が厳しくなっているといわれていますが、国税庁のウェブサイトの「平成26事務年度 法人税等の調査事績の概要」という資料でもその状況を確認することができます。
ここでは法人税や源泉所得税などの調査状況を確認することができます。
現時点で最新のものは平成26事務年度(平成26年7月1日~平成27年6月30日)となっており、毎年11月頃に発表されます。
今回はその中の「海外取引に係る源泉所得税の実地調査状況」をピックアップしたいと思います。
海外取引に係る源泉所得税の実地調査状況
海外取引に係る源泉所得税の実地調査状況は、「平成26事務年度 法人税等の調査事績の概要」の7ページ目に記載されています。
平成26事務年度において、非違があった件数は1,493件、調査による追徴本税額は約41億円となっております。1件当たりの追徴本税額は約270万円ということになりますので、決して小さい額ではないことがわかります。
源泉所得税の税務調査について、下記のようなコメントがされています。
✔ 外国法人に対する工業所有権の使用料の支払について、源泉徴収を行っていなかった事例などが見受けられました。
✔ 平成26事務年度の調査においては、使用料や人的役務提供事業などについて源泉所得税等の課税漏れを1,500件(前年対比 113.4%)把握し、41億円(同133.9%)を追徴課税しました。
追徴課税された項目の内訳
非居住者への支払いに係る源泉所得税の税務調査で追徴課税された項目の内訳は下記の通りとなっています。
上記のコメントにもある通り、使用料が最も多く、次いで人的役務提供事業に係る追徴課税が多くなっています。カッコ内の金額が推定される追徴本税額です。
・使用料 : 32% (約13億円)
・人的役務提供事業 : 28%(約11億円)
・利子 : 13%(約5億円)
・配当 : 10%(約4億円)
・不動産譲渡 : 8%(約3億円)
・給与等 : 4%(約1.5億円)
非居住者又は外国法人へ支払う使用料については要注意
最も多く追徴課税されている使用料の支払いとはどのようなものなのでしょうか。
非居住者又は外国法人に対して、日本国内で源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、原則として、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない、とされています。
対象となる国内源泉所得については国税庁ウェブサイトなどでも確認することができます。
その中に「使用料等」というものが含まれていることがわかります。使用料等を非居住者又は外国法人に対して支払う場合で、その支払者の国内業務に係るものは、原則として20.42%の源泉が必要になります。
それでは、その「使用料等」の定義についてもう少し詳細を見ていきたいと思います。
使用料等とは
日本の国内法上、源泉が必要となる使用料等とは次に掲げる使用料又は対価で、その支払者の国内業務に係るものとされています。
① 工業所有権等の使用料又はその譲渡による対価
② 著作権の使用料又はその譲渡による対価
③ 機械、装置等の使用料
例えば、特許権や商標権の使用料は①に該当します。また、いわゆる「ノウハウ」に対する対価も①に含まれる可能性があるため注意が必要です。
また、「その支払者の国内業務に係るもの」であるかどうかも重要なポイントになりますが、国内において行う業務の用に供されている部分に対応するものが源泉の対象となります。
例えば、③機械、装置等の使用料であったとしても、その機械、装置等が日本国外で行う業務の用に供されている場合には源泉の対象にはなりません。
なぜ使用料等は源泉漏れが起きやすいか
工業所有権の使用料などは、「外国法人や非居住者が日本にきて何か役務の提供をしているわけではないのに源泉が必要になる」、という点がポイントになります。
他の項目については基本的には日本で役務の提供をしているかどうかが重要になってきますが、「使用料等」については日本に来て何かサービスを行っているわけではありませんが、工業所有権等が日本での業務に使用されているのであれば源泉が必要になる、という考え方になります。
そのため、使用料等については源泉漏れとなってしまうことが多いと考えられます。
国際税務の基本として、まずは国内法において源泉の対象になるかを確認し、源泉の対象となる場合には租税条約による減免がないかを確認する必要があります。
源泉が必要となる使用料等かどうかの判断が難しいケースもありますので、事前に専門家にご相談頂くことをお勧め致します。
【補足】租税条約の届出
上記の通り、使用料等について源泉が必要となる場合には国内法に基づいて20.42%を源泉する必要がありますが、租税条約を締結している場合には租税条約の届出を出すことにより、減免される可能性があります。
この届出は、「最初に使用料の支払を受ける日の前日」までに提出する必要があるため注意が必要です。
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