【国外転出時課税制度】納税猶予の特例の適用を受けるためにするべきこと
目次
国外転出時課税制度の概要
国外転出時課税制度(いわゆる出国税)とは、平成27年7月1日以後に出国する「一定の高額資産家」を対象に、出国時に未実現のキャピタルゲインに対して特例的に課税を行う制度です。「一定の高額資産家」とは、下記2つの要件を満たす居住者を言います。
✓ 出国時の有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引の合計金額(評価額)が1億円以上の場合
✓ 国外転出をする日前10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間が5年超である者
平成27年7月1日以後に出国する場合に適用される制度ですので、これから海外へ移住・赴任する富裕層の方は必ず注意しなければなりません。海外進出や国際税務を考える上でも、必ず注意しなければならない制度と言えるでしょう。
国外転出時課税の納税猶予の特例
有価証券等を売却していないにも関わらず、納税をしなければならないということですので、当然納税のための資金が不足することが想定されます。そこで、設けられている制度が「納税猶予の特例」です。
「一定の高額資産家」に該当したとしても、一定の手続を行った場合には、国外転出時課税の適用により納付することとなった所得税について、国外転出の日から5年(最長10年)を経過する日まで納税を猶予することができます。
逆に「一定の手続き」を行わない場合には原則通り、納税する必要が生じるため、納税猶予の特例の適用を受けるためには必ず出国する前にその手続きの内容を確認する必要があります。
納税猶予の特例(出国前の手続き)
納税猶予の特例の適用を受けるために、出国前に行わなければならない手続きは下記の一つです。
① 国外転出の時までに所轄税務署へ納税管理人の届出
納税猶予の特例(出国後の手続き)
納税猶予の特例の適用を受けるためには、出国後も下記の手続きが必要になります。
② 国外転出時課税の申告をする年分の確定申告書に納税猶予の特例の適用を 受けようとする旨を記載
③ 上記確定申告書に「国外転出等の時に譲渡又は決済があった ものとみなされる対象資産の明細書(兼納税猶予の特例の適用を受ける場合の対象資産の明細書)《確定申告書付表》」及び「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予分の所得税及び復興特別所得税の額の計算書」を添付
④ その確定申告書の提出期限までに、納税を猶予される所得税額及び利子税額に相当する担保を提供
⑤ 確定申告書の提出後についても、納税猶予期間中は、各年の12月31日に おいて所有等している対象資産について、引き続き納税猶予の特例の適用を受けたい旨などを記載した「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予の 継続適用届出書」を翌年3月15日(土・日曜日の場合は翌月曜日)までに、所轄税務署へ提出
納税猶予の手続きの流れ
上記の手続きの流れを実際のケースに当てはめてみます。
<2016年11月30日に出国する場合>
① 納税管理人の届出→2016年11月30日までに
② 国外転出時の年分の確定申告書で納税猶予を受ける旨の記載→2017年3月15日までに
③ 一定の事項を記載した書類の添付→2017年3月15日までに
④ 担保の提供→2017年3月15日までに
⑤ 各年に継続適用届出書を提出→2018年3月15日までに(2019年以降も納税猶予期間中は毎年確定申告期限までに提出する必要あり)
担保の提供
上記④の通り、納税猶予の特例の適用を受けるためには、『担保の提供』が必要になりますが、担保として提供できる財産は次のとおりです。
<国税通則法第 50 条に掲げる財産>
・ 国債及び地方債
・ 社債その他の有価証券で税務署長等が確実と認めるもの
・ 土地
・ 建物、立木及び登記される船舶並びに登録を受けた飛行機、回転翼航空機及び自動車並びに登記を受けた建設機械で、保険に附したもの
・ 鉄道財団、工場財団等
・ 税務署長等が確実と認める保証人の保証
・ 金銭
※一定の要件を満たす場合には、非上場株式や法人による保証を担保とすることができる可能性もあります。要件や必要書類の詳細については、国税庁ウェブサイト『国外転出時課税制度(FAQ) Q63-Q67』をご参照下さい。
国外転出時課税の対象となっている非上場株式を担保とすることも可能
次の⑴又は⑵のいずれかに該当する場合には、国外転出時課税制度の対象となった非上場株式を納税猶予の担保とすることができます。
⑴ 財産のほとんどが非上場株式であり、かつ、その株式以外に所得税に係る納税猶予の担保として適当な財産がないと認められること。
⑵ 非上場株式以外にも財産があるが、その財産が他の債務の担保となっており、納税猶予の担保として提供することが適当ではないと認められること。
なお、株券の発行がされていない場合には、会社に対して株券の発行を請求する必要があります。また、譲渡制限が付されている場合には、譲渡について取締役会の承認を受けるなど譲渡可能としたことを証する議事録の写しが必要になります。
保証人には法人も含まれる
税務署長等が確実と認める保証人の保証ですが、「法人」の保証も対象になります。
法人による保証である場合には、保証義務を果たすための資力が十分であると認められる他に、保証人となる「法人」がその国税を保証することが、その法人の定款に定める目的の範囲内に属する場合に限られます。
なお、次の⑴又は⑵のような法人による保証は、「定款の定めの範囲内に属する場合」として取り扱われます。
⑴ 保証を行おうとする方と取引上密接な関係にある営利を目的とする法人
⑵ 保証を行おうとする方が役員となっている営利を目的とする法人で、株主総会又は取締役会などの承認を受けた法人
納税猶予期限の5年延長
長期海外滞在が必要な場合は、国外転出の日から5年を経過する日までに「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予の期限延長届出書」を所轄税務署へ提出することにより、納税猶予期限を5年延長(合計10年)することができます。
まとめ
上述の通り、国外転出時課税制度について、納税猶予の特例の適用を受けるためには、一定の手続きが必須となります。納税管理人の届出は出国時までにしなければならないため、出国前から納税管理人を誰にしてもらうか、また出国後の手続きについても事前に専門家に相談する必要があると考えられます。
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