国際税務コラム

仮想通貨

非居住者が国内の仮想通貨取引所で仮想通貨を譲渡したら日本で課税されるか?

非居住者が日本の仮想通貨取引所で仮想通貨を譲渡したら日本で課税されるか?

基本的に非居住者については、日本国内で稼得した『国内源泉所得のみが課税対象』となります。

従いまして、『国内源泉所得』に該当するかどうかがポイントとなります。順を追って条文を見ていきたいと思います。

 

所得税法第161条(非居住者の国内源泉所得)

国内源泉所得については、所得税法第161条各号に規定されています。仮想通貨に関係がありそうなものは下記の2号・3号・17号でしょうか。

 

・所得税法161条2号(国内資産の運用・保有による所得)

・所得税法161条第3号(国内資産の譲渡所得)

・所得税法161条第17号(その他、国内所得として一定のもの)

 

所得税法161条第3号をまずは見ていきたいと思います。

 

所得税法161条3号(国内資産の譲渡所得)に該当するか?

161条3号(国内資産の譲渡所得)に該当する所得について所得税法施行令第281条に委任されています。

限定列挙ですので、下記①~⑧に含まれていなければ国内源泉所得となる国内資産の譲渡所得には該当しない、ということになります。

 

① 国内にある不動産の譲渡による所得
 
② 国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権又は採石法の規定による採石権の譲渡による所得
 
③ 国内にある山林の伐採又は譲渡による所得
 
④ 内国法人の発行する株式その他内国法人の出資者の持分(以下この項及び第四項において「株式等」という。)の譲渡による所得で次に掲げるもの
 
イ:同一銘柄の内国法人の株式等の買集めをし、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はこれらの者若しくはその依頼する者のあつせんにより譲渡をすることによる所得
 
ロ:内国法人の特殊関係株主等である非居住者が行うその内国法人の株式等の譲渡による所得(内国法人の株式の25%以上に相当する株式を所有する株主がその株式を年間5%以上譲渡した場合。いわゆる事業譲渡類似株式の譲渡)
 
⑤ 不動産関連法人の株式の譲渡による所得(いわゆる不動産化体株式の譲渡)
 
⑥ 国内にあるゴルフ場の所有又は経営に係る法人の株式又は出資を所有することがそのゴルフ場を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用する権利を有する者となるための要件とされている場合における当該株式又は出資の譲渡による所得
 
⑦ 国内にあるゴルフ場その他の施設の利用に関する権利の譲渡による所得
 
⑧ 前各号に掲げるもののほか、非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得

 

 

仮想通貨は①~⑧のいずれにも該当しないため、所得税法第161条3号には該当しません。

ただし、次に見ていく161条2号や17号が関係してくる可能性も考えなければなりません。

 

所得税法161条2号(国内資産の運用・保有による所得)に該当するか?

仮想通貨による所得が「譲渡」によるものであると解釈できる場合には、そもそもこの2号を検討する必要があるのか判断が分かれるのかもしれませんが、次に所得税法161条2号(国内資産の運用・保有による所得)も見ていきます。

 

こちらの所得は所得税法施行令280条に『例示列挙』されており、国内資産の運用・保有による所得には下記のものが含まれると規定されています。

 

① 公社債のうち日本国の国債若しくは地方債若しくは内国法人の発行する債券又は金融商品取引法第二条第一項第十五号(定義)に掲げる約束手形
 
② 居住者に対する貸付金に係る債権で当該居住者の行う業務に係るもの以外のもの
 
③ 国内にある営業所、事務所その他これらに準ずるもの又は国内において契約の締結の代理をする者を通じて締結した生命保険契約、旧簡易生命保険契約、損害保険契約その他これらに類する契約に基づく保険金の支払又は剰余金の分配(これらに準ずるものを含む。)を受ける権利

 

 

仮想通貨は上記①~③の例示列挙には含まれていません。

 

ただし、所得税法施行令280条は限定列挙ではなく『例示列挙』である点を鑑みると、所得税法第161条2号には該当しないと言い切るのは少し怖いように感じます。

 

所得税法161条17号(その他、国内所得として一定のもの)に該当するか?

最後に所得税法161条17号(その他、国内所得として一定のもの)も記載しておきます。
 
こちらは、所得税法施行令第289条に規定されています。
 
 
① 国内において行う業務又は国内にある資産に関し受ける保険金、補償金又は損害賠償金(これらに類するものを含む。)に係る所得
 
② 国内にある資産の法人からの贈与により取得する所得
 
③ 国内において発見された埋蔵物又は国内において拾得された遺失物に係る所得
 
④ 国内において行う懸賞募集に基づいて懸賞として受ける金品その他の経済的な利益(旅行その他の役務の提供を内容とするもので、金品との選択ができないものとされているものを除く。)に係る所得
 
⑤ 前三号に掲げるもののほか、国内においてした行為に伴い取得する一時所得
 
⑥ 前各号に掲げるもののほか、国内において行う業務又は国内にある資産に関し供与を受ける経済的な利益に係る所得

 

 

仮想通貨が上記⑥「資産に関し供与を受ける経済的な利益に係る所得」に含まれると指摘されることがあり得るのでしょうか。ここも解釈が分かれる可能性があります。

 

なお、繰り返しになりますが、仮想通貨による所得が「譲渡」によるものと解釈できる場合には、そもそもこの2号や17号を検討することに意味はありません。が、そもそも仮想通貨とは何かというところから議論される必要があるのでしょう。普通に考えればモノの売却は「譲渡」になると考えられるのでしょうが、仮想通貨は今までになかった技術を利用した新しいものですし、今までには想像できなかった解釈も出てくるかもしれません。仮想通貨の定義・本質から理解する必要があるのでしょう。仮想通貨の取引形態や種類等によっても変わってくるかもしれません(あくまでも著者の私見ですのでご参考までに)。

 

 

税務大学校の「仮想通貨の税務上の取扱い -現状と課題-」

税務大学校の「仮想通貨の税務上の取扱い -現状と課題-」の中で、問12-2「非居住者及び外国法人であっても、ビットコインの国内交換所で経済的利益が発生した場合、一般論として課税対象になり得るという理解でよいか、政府の見解を示されたい。」という質問に対する政府の過去の答弁が記載されております。

 

『一般論としては、所得税法第2条第1項第5号に規定する非居住者又は法人税法代2条第4号に規定する外国法人については、所得税法第7条第1項第3号若しくは第5号又は法人税法第9条第1項に規定する国内源泉所得を課税の対象としており、その対象に該当しない場合には、課税の対象とならない。』

 

この答弁を見る限りでは最後が「課税の対象とならない」と言っているものの、どちらとも取れるような気がします。

 

 

何とも歯切れが悪くなってしまいましたが、いずれにしましても、所得税法161条3号の「国内資産の譲渡所得」には該当しないと考えられますが、所得税法161条2号や17号に仮想通貨が該当する可能性があるのか、明確な指針が欲しいところです。

 

 

なお、上記以外にも非居住者・居住者判定の問題なども慎重に検討する必要がありますので必ず専門家にご相談頂くことをお勧め致します。

 

※お電話での無料相談は行っておりません。有料によるご相談をご希望の方は恐れ入りますが、お問い合わせフォームよりご連絡をお願い致します。

 

※本記事は2018年1月5日現在の法令に基づいております。