恒久的施設(PE)の認定 ~非居住者がインターネット販売事業で日本にアパート等を保有していたケース~
目次
そもそも恒久的施設(PE)とは何か?
国際税務において、「恒久的施設(PE)」の有無で課税関係が非常に大きく変わります。
非居住者にとって日本に「恒久的施設」があると認定された場合には日本での課税範囲が非常に大きくなる可能性があり、追徴課税されるリスクが高くなるということになります。
「恒久的施設」という用語は、一般的に、「PE」(Permanent Establishment)と略称されており、大きく次の3つの種類に区分されています。
① 支店等のPE
支店、出張所、事業所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫、鉱山・採石場等天然資源を採取する場所。ただし、資産を購入したり、保管したり、事業遂行のための補助的活動をしたりする用途のみに使われる場所は含みません。
② 建設PE
建設、据付け、組立て等の建設作業等のための役務の提供で、1年を超えて行うもの。
③ 代理人PE
非居住者のためにその事業に関し契約を結ぶ権限のある者で、常にその権限を行使する者や在庫商品を保有しその出入庫管理を代理で行う者、あるいは注文を受けるための代理人等(代理人等が、その事業に係る業務を非居住者に対して独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合の代理人等を除きます。)。
日本国内に恒久的施設を有するかどうかを判定するに当たっては、形式的に行うのではなく機能的な側面を重視して判定することになります。
例えば、『事業活動の拠点』となっているホテルの一室は、恒久的施設に該当しますが、単なる製品の貯蔵庫は恒久的施設に該当しないことになります。
租税条約における恒久的施設の定義にも注意が必要
上記の通り、恒久的施設は大きく3つ(①支店等のPE、②建設等のPE、③代理人PE)に区分されています。
なお、上記の恒久的施設の定義は日本の国内法の規定です。
もし、居住国と日本との間で租税条約が締結されている場合には、租税条約における恒久的施設の定義も確認する必要があります。
①支店等のPEと③代理人PEについては、租税条約における定義と大きく異なることはないと考えられますが、②建設等のPEについては租税条約における定義と大きく異なるケースもあるため注意が必要です。
具体的に、どのような場合にPE認定を受ける可能性があるでしょうか。
最近のPE認定に関する判決(平成24年(行ウ)第152号)をご紹介いたします。
非居住者が行っていたインターネット販売事業で日本に倉庫・アパートを保有していたケース
東京地方裁判所は、平成27年5月28日、アメリカから輸入した商品をインターネットを介して日本国内の顧客に販売していた非居住者(アメリカ居住者)について、日本国内に「恒久的施設を有する」として推計課税を行った原処分を支持する判決を下しました。
これは日本国内に保有していたアパート等について「恒久的施設」に該当するという判決であり、結果として日本で追徴課税が行われました。
事案の背景
背景は下記の通りです。
① 原告Xは、日本でインターネット上のウェブサイトやオークションサイト等を通して外国からの輸入商品を日本で販売する個人事業を行っていた
② 平成16年にアメリカに出国し、非居住者となる
③ 非居住者となった後も、同じ事業を継続
④ 以前から当該事業のために賃借していたアパートに加えて、倉庫も賃借(アパート等)
⑤ アパート等で、輸入商品を保管し、従業員(パートタイマー)が発送の手配
※パートタイマーの主な業務は、輸入された商品の受け取り、保管、販売商品の梱包・発送、返品された商品の受け取り、代替商品の発送、自社ホームページ等に掲載する輸入商品の写真撮影でした。
取引の流れ(概要)
取引の流れは下記の通りです。
アメリカで仕入れた自動車用品を、日本に輸入し、日本国内のアパート等に保管。インターネット上の自社ウェブサイトやオークションサイトに出品して、顧客から注文を受ける。注文を受け次第、従業員が保管されている在庫商品に独自の日本語版取扱説明書等を同梱して商品を顧客に配送。
今回焦点となったのは、国内で賃貸していたアパート等です。
日本国内法も日米租税条約上も単なる倉庫のような『準備的又は補助的な性格の活動』を行う場所はPEからは除外されるものと規定されています。
それでは、なぜ本事案ではPE認定されたのでしょうか。
なぜPEに該当したか?
東京地方裁判所は下記のような事実から、アパート等が本件販売事業の全部又は一部を行う場所であったことは明らかであり、日米租税条約5条1項の規定する恒久的施設(PE)に該当すると判断を下しました。
『本件アパート等は、原告が米国に居住している間も、①本件販売事業の商品を保管しておき、②顧客の注文を受けて、個別に商品を梱包した上で顧客向けに発送し、また、③顧客からの返品があった場合には、返品された商品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行う場所であった。』
準備的又は補助的な性格の活動
そして、以下のような理由(一部抜粋)からPEから除くべき『準備的又は補助的な性格の活動』には該当しないと判断しました。
・ 原告が米国に居住している間もホームページ等において、本件企業の所在地及び連絡先として、本件アパートの住所及び本件電話番号等を掲載し、販売活動を行っていた。
本件販売事業における販売活動が全てインターネットを通じて行われており、本件販売事業が本件アパート等に保管された在庫商品を販売するという事業形態であることを併せ考えれば、本件アパートは本件販売事業における唯一の販売拠点(事業所)としての役割・機能を担っていたということができる。
・ 本件従業員は本件アパート等において商品を保管しておき、顧客の注文を受けて個別に商品を梱包した上で顧客に向けて発送し、また顧客からの返品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行っており、これらの業務は通信販売である本件販売事業にとって重要な業務であったというべきである。
業種・業態によって個別に判断しなければならない
業種・業態に応じて、この『準備的又は補助的な性格の活動』は個別に判断すべきであり、非常に判断が難しいと考えられますが、今後はこの判例も参考にしながら、慎重に検討する必要があると言えます。
(参考)平成24年(行ウ)第152号 所得税決定処分等取消請求事件