国際税務コラム

シンガポール法人税

シンガポール予算案(Budget)2018 税制改正概要

シンガポール予算案 2018の発表

2018年2月19日に2018年度のシンガポール予算案及び税制改正案が発表されました。

 

本年度の予算案には、世界経済のウェイトがアジアに移行しつつあることや、新たなテクノロジーの台頭、人口の高齢化など、今社会が直面している大きな変化を踏まえながら、以下4つのテーマを掲げ、目標達成に向けた様々な政策が盛り込まれています。

 

① 革新的な経済を発展させること

② スマートでグリーンかつクリーンな国をつくること

③ 思いやりのある共生社会を育てること

④ 財政的にも持続可能で安全な未来を構築すること

 

税制面においては、法人税率に変更はありませんでしたが、シンガポールで事業を展開している企業に影響し得る改正がいくつか見られましたので、それらを中心に紹介していきます。

 

部分免税制度及びスタートアップ免税の制限

現行制度では、基本的にすべての法人に適用される『部分免税制度』の上限は$300,000ですが2020賦課年度以降は$200,000に引き下げられます。

 

部分免税制度やスタートアップ免税については下記記事をご参照下さい。

シンガポールの法人税実効税率はどのくらい?

 

また、一定の要件を満たしたスタートアップ企業に向けて、設立から3年間、部分免税制度よりもさらに優遇された免税制度がありますが、こちらも上限は$300,000から$200,000に引き下げられ、また最初の課税所得$100,000までに対して法人税が100%免税とされていましたが、2020賦課年度からは免税額が75%に下がります。

 

詳細はIRASウェブサイトをご参照ください。例題も含め詳細な説明が掲載されています。

IRAS Website

 

スタートアップ免税等が制限された理由は?

シンガポール政府は今回の制限について、下記の通り説明しています。

 

『既存の租税制度がスタートアップ企業や零細企業のコスト削減に役立ってはいるものの、直接的に企業のポテンシャルを育成するものではないとして今回の制限に至った』

 

また、『こうした改正を行ったとしてもシンガポールの法人税は未だ低いままで、実効税率で言えばスタートアップ企業は4.3%、零細企業は8.1%であり、さらにこの他にも様々な政府の支援策の活用が可能である』とも述べています。

 

タックスリベートの延長及び引き下げ

2017年賦課年度までは、$25,000を上限として法人税額の50%がリベートとして法人へ還元されていましたが、2018年賦課年度では$15,000を上限として法人税額の40%が還元されることになりました。

 

さらに2019年賦課年度においては$10,000を上限とし、法人税額の20%が還元されることになります。

 

この改正についてシンガポール政府は、『企業の成長を促し、利益を出しているすべての企業に確実に税金を納めてもらうための健全かつ公平な措置』と述べています。

 

将来的なGSTの引き上げ(見込み)

GSTは現在の7%から9%へ引き上げられる見込みです。実施時期については景気の動向、支出の伸び及びその他既存の税の増税状況と照らし合わせて2021年から2025年の間とされています。

 

GSTの改正は2007年に5%から7%に引き上げられて以来のことであり、この背景には2021年から2030年にかけてシンガポールの税収が不足すると予想されていることにあります。

 

2030年までにシンガポールの高齢者は90万人を突破するとみられており、こうした急激な高齢化に伴い、医療費支出は年々膨らむ一方で、その他インフラ費用、テロ対策強化のためのセキュリティ関連投資、教育サービスの拡充などが増えることが予想されています。

 

世界各地で外資誘致合戦が繰り広げられる中、シンガポールの国際競争力を維持しながら、こうした需要に応えるためにGSTの引き上げが必須だったと政府は判断したようです。

 

詳細は増税の時期が確定したら改めて発表がある予定ですので、今後も注視していく必要があります。

 

海外でのサービスに対するGST課税

2020年1月1日に、GSTは海外のサービスに対しても適用されることになります。

 

海外または国内のサービスを提供している企業の公平性を考慮したもので、海外のサプライヤーに発注したコンサルティング業務やマーケティングサービス、そして海外に拠点を置く企業のアプリケーションや音楽をダウンロードした場合にも課せられるようになります。

 

二重損金算入税制の拡充

現行制度では、展示会への出展や海外市場開拓などに係る経費のうち、年間$100,000まではシンガポール国際企業庁(IE)またはシンガポール政府観光局(STB)の承認を受ける必要はありませんが、この限度額が2019賦課年度以降から年間$150,000に引き上げられます。

 

現行の二重損金算入税制 Double Tax Deduction Internationalisation 【DTDi】については下記記事をご参照ください。

シンガポールからのASEAN市場開拓に使える優遇税制【DTDi】とは?

 

政府機関の統合による更なる支援

企業の成長と国際事業の拡大支援を行っているSpring Singaporeとシンガポール国際企業庁(IE)が2018年4月に統合されます。それにより、最大70%の助成金が支給可能となり企業の更なる成長が促進されます。

 

無形資産に対する更なる控除

シンガポール政府は、物理的な資産ではなく知的財産(IP)やデータなどの目に見えない資産が競争力を高めるために欠かせないとしており、知的財産ライセンス取得やIP登録料に対する控除が100%から200%に増額され、さらにシンガポールで発生する研究開発費の控除も150%から250%に増額されます。

 

企業向けカーボン税の導入(温暖化防止のための環境税)

2019年から、年間25000トン以上の温室効果ガスを排出する全ての企業にカーボン税がかけられます(正確には2019年中に排出した分に対して2020年に課税されます)。

 

カーボン税の導入はアジアではシンガポールが初めてで、シンガポール政府が気候変動による影響に備えていることがうかがえます。

 

なお、カーボン税は家計への影響は少なく、課税による光熱費の上昇は1%程度と見込まれていますが、今回のカーボン税の導入は企業だけでなく国民の環境保護意識の向上を図ることも目的とされています。

 

(参考)

http://www.singaporebudget.gov.sg/budget_2018/

 

 

執筆者:Taeka Kikui

 

※本記事は2018年3月2日の時点の記事ですのでご留意ください。