国際税務コラム

タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制と個人所得税の関係

タックスヘイブン対策税制がある理由

パナマ文書で『タックスヘイブン』という言葉が注目を浴びていますが、日本には外国子会社合算税制(いわゆる、タックスヘイブン対策税制)という税制があります。

国際税務でも重要な税制の一つになっています。

本来は日本法人で計上されるべき利益の一部について、シンガポールや香港などの軽課税国(税負担割合20%未満)に設立されたペーパーカンパニーに自由に移転することができれば、グループ全体の実効税率が不正に軽減されることになります。

※タックスヘイブン対策税制は平成29年度税制改正大綱で抜本的な見直しがされています。詳細は、【平成29年税制改大綱】外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の改正をご確認下さい。

 

さらに、その利益を配当せずにペーパーカンパニーで留保し続ければ、配当による課税も回避できることになってしまいます。

このような不当な取引を防止する税制がタックスヘイブン対策税制です。

 

タックスヘイブン対策税制の概要

タックスヘイブン対策税制の概要は下記の通りです。

居住者が発行済み株式の総数又は出資金額の50%超を直接及び間接に所有する外国法人(『外国関係会社』という)で、その現地における法人所得に対して課される税負担が20%未満であるもの(『特定外国子会社等』という)について、その保有する株式の持分に対応する留保所得をその居住者の所得とみなしてその居住者の所得に合算して課税する制度です。

もちろん、シンガポールなどの軽税率国に子会社を設立すれば、必ず合算課税されてしまうわけではなく、適用除外基準が設けられています。

現行法(2017年1月1日時点)におけるタックスヘイブン対策税制の判定フローは下記の通りです。

タックスヘイブン改正前

 

適用除外基準

下記の適用除外基準を全て満たす場合には、タックスヘイブン対策税制による合算課税はされないことになります。

① 事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)
※主たる事業が株式の保有であっても、事業統括会社に該当する場合には事業基準を満たすものとされています。
 
② 実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)
 
③ 管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)
 
④ 次のA・Bいずれかの基準
A) 所在地国基準 (主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)
※主たる事業が下記卸売業等以外の業種の場合に適用
 
B) 非関連者基準 (非関連者との取引割合が50%超であること)
※主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業の場合に適用
 
 

なお、持株割合10%未満の株式譲渡益・配当や債券の利子など一定の資産性所得に該当する場合には適用除外基準を全て満たしていたとしても、合算課税される可能性があります。

 

個人とタックスヘイブン対策税制の関係

このタックスヘイブン対策税制は、株主が法人である場合(つまり、日本の親会社が海外子会社を設立した場合など)だけに適用されるわけではなく、日本の居住者である『個人』が株主となり、海外に子会社を設立した場合にも適用されます。

 

『雑所得』として課税

居住者個人が適用を受ける場合には、その特定外国子会社等の各事業年度終了の日の翌日から2ヶ月を経過する日の属する年分の『雑所得』として、日本で課税されることになります。

『課税対象金額』から『必要経費』を控除した額が雑所得として課税されることになります。

『課税対象金額』とは、本邦法令又は現地法令に基づき計算した特定外国子会社等の所得金額から一定の調整を行った後の金額(『適用対象金額』という)にその居住者個人の直接間接の保有割合を乗じた金額を言います。

また『必要経費』とは、下記の二つの合計を言います。必要経費は課税対象金額が限度となるため、雑所得の金額がマイナスになることはありません。

・ 特定外国子会社等の株式等を取得するための負債利子

・ 特定外国子会社等からの配当等に係る外国所得税の額

 

『雑所得』として課税された場合の所得税率は?

雑所得の金額は、給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。

所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階に区分されており、所得が多くなるにつれて税率も高くなります。

つまり、給与所得など他の所得の金額が大きい場合は、適用される税率も高くなります(最大45%)。さらに住民税も加味すると最大で約55%となる可能性があります。

(参考)国税庁タックスアンサー『所得税の税率』

 

配当等があった場合の二重課税の調整

居住者個人が、雑所得として合算課税を受けた特定外国子会社等から剰余金の配当等を受けた場合、配当所得として課税されてしまうと二重課税になってしまいます。

従って、そのような場合にはその特定外国子会社等からの剰余金の配当等の額については配当所得の計算上、控除されることになります。

ただし、控除できる額は配当日の属する年分及びその年の前年以前3年以内の各年分において『雑所得』として課税された留保所得が限度とされています。

 
 

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【弊社でのサポート】

弊社では、下記のようなサポートを行っておりますので、お困りの際はお問い合わせフォームよりご連絡下さい。

・ シンガポール及び日本における個人の所得税申告ワンストップサポート

・ 中小企業 / 中小企業オーナーの方へのタックスヘイブン対策税制の適用除外診断及び改善支援サービス

<サポート事例>

大手日系法人の社員がシンガポール現地法人に出向、9ヶ月のみの出向であり、日本とシンガポールの両国で2重課税されたケース。シンガポールでの所得税申告及び日本での所得税申告(外国税額控除による2重課税の回避)をワンストップでサポート。

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