国際税務コラム

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馬券の払戻し(収入)は『一時所得』か『雑所得』か?

馬券収入は一律『一時所得』と解されていた

馬券収入は今まで『一時所得』と解されていました。雑所得にすることはできず、つまり馬券の購入費用を経費として控除することはできないと考えられていました。しかし、昨年の最高裁の判決で一定の場合には『雑所得』にもなり得ることになりました。その最高裁の判決の概要は下記の通りです。

 

馬券収入に係る最高裁判決(概要)

競馬の馬券の購入を機械的、網羅的、大規模に行っており、かつ、そうした購入を実際に行っていることが客観的に認められる記録が残されているなどの場合において、

①競馬の馬券の 払戻金は一時所得と雑所得のいずれに該当するか

②所得金額の計算上控除すべき金額は的中した馬券の購入金額に限られるか否か

が争われていた裁判で、最高裁平成27年3月10日判決は、競馬の馬券の払戻金はその払戻金を受けた者の馬券購入行為の態様や規模等によっては、一時所得ではなく、雑所得に該当する場合があり、その場合においては外れ馬券も所得金額の計算上控除すべき旨、判示しました。

(参考)国税庁ウェブサイト『競馬の馬券の払戻金に係る課税の取扱い等について』

 

最高裁判決を受けて改正された所得税基本通達34-1

上記、最高裁判決を受けて所得税基本通達34-1の一部が改正されました。改正前・改正後の基本通達34-1は下記の通りです。

 

<改正前>

34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。

(1) 懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)

(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)以下省略

 

<改正後 (赤字部分が追加されました) >

34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。

(1) 懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)

(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)

  (注)

1.1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。

1.2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。以下省略。

(参考)国税庁ウェブサイト(所得税基本通達34-1)

 

上記改正により雑所得として申告ができるか?

以下、私見を交えて今後馬券収入について雑所得として申告できるのかどうかまとめたいと思います。

上記最高裁の事例は、一般的な馬券収入とは言えない購入方法や金額・規模であるため、結論としては雑所得として申告できるケースは依然として限定的と考えられます。

 

基本通達に明記されている通り、下記の場合には『雑所得』となると記載されています。

『馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。』

 

まず、一般的ではないと考えられる箇所は『ソフトウェアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいて、、』という点です。

また、もう一つ着目すべき点は『多額の利益を恒常的に上げ、、』という点です。基本通達では具体的な金額は明記されていませんが、今回の最高裁の判決において公訴事実とされた平成 19 年から平成 21 年までの3年間は、平成 19 年に約1億円、平成 20 年に約 2,600 万円、平成 21 年に約 1,300 万円の利益を上げていた、とされています。また、その利益を得るために一年あたり10億円前後の馬券を購入し続けていた、とのことです。

やはり一般的な購入方法ではなく、また購入していた馬券の額・利益の額ともに極めて高額であり、この基本通達をもって今後馬券収入は『雑所得』として申告できる、と言うのは難しいと考えられます。

 

 

 

※本記事は2016年7月4日時点の法令等に基づいて記載されています。その内容の正確性、完全性、目的適合性その他いかなる点についても、税務当局と見解の合致を保証するものではございません。

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