国際税務コラム

税務上の居住者・非居住者判定

【国際税務】日本の所得税法上の居住者とは?

日本の所得税法上の居住者の定義はなぜ重要か?

居住者の定義は国際税務を考える上で重要になってきますが、そもそも何故日本での居住者の定義が重要になってくるのでしょうか。

 

それは、居住者と非居住者では、課税範囲が大きく異なってくることにあります。

 

日本の税法上の、居住者(※)の場合は『所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税』されることになります。いわゆる、『全世界所得課税』です。

国外にある不動産の貸付・譲渡による収益などの国外源泉所得に対しても日本で課税されることになります。

 

一方で、非居住者(居住者以外の個人を言います)の場合は、日本国内において生じた所得(国内源泉所得)に限って課税されますので、上記のような国外源泉所得には課税されません。

 

つまり、非居住者の方が課税される範囲が少ないため、居住者か非居住者かという線引きは非常に大きな意味を持ちます。

 

※ここでは、わかりやすくするため非永住者以外の居住者を前提としています。非永住者について確認したい方は、国税庁ウェブサイト(外部)をご覧下さい。

 

日本の所得税法における居住者の定義は?

日本の所得税法において、『居住者』とは、国内に『住所』を有し、又は、現在まで引き続き1年以上『居所』を有する個人をいい、『居住者』以外の個人を『非居住者』と規定しています。

 

いくつかキーワードが出てきていますが、それぞれ下記のように判定します。

 

『住所』は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。従って、『住所』は、その人の生活の中心がどこかで判定されます。

 

滞在地が2ヵ国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、職務内容や契約等を基に「住所の推定」を行うことになります。

 

『居所』は、「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」とされています。

 

住所の推定

上記の通り、『住所』と『居所』の定義が明確ではないため、実務的にはとても難しい判断をしなければならないケースが多くあります。

 

滞在地が2ヵ国以上の場合の【住所の推定】は職務内容や契約等をもとに行うとされていますが、具体的にはどのように判断するのでしょうか。

 

国税庁ウェブサイトには下記の通り、記載されています。

以下、国税庁ウェブサイト(外部)抜粋

 

『ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、例えば、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断することになります。

(注) 滞在日数のみによって判断するものでないことから、外国に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても、わが国の居住者となる場合があります。
 1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler, Permanent Traveler)」の場合であっても、その人の生活の本拠がわが国にあれば、わが国の居住者となります。』

 

所得税法施行令 第14条と第15条

また、住所の推定について、下記の条文も考慮する必要があります。

 

(国内に住所を有する者と推定する場合)

【所得税法施行令 第14条】
国内に居住することとなつた個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する。
一  その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二  その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。
2  前項の規定により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定する。


(国内に住所を有しない者と推定する場合)

【所得税法施行令 第15条】
国外に居住することとなつた個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定する。
一  その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二  その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。
2  前項の規定により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定する。

 

今後の流れはどうなるでしょうか?

上述の通り、居住者の定義は極めて曖昧であるため、今後は裁判に発展するケースも増えてくると考えられますので、判例もさらに重要になってくるでしょう。

 

非居住者になることで、日本で税金がかからなくなるケースがあるため節税のために海外に移住することを考えている方(実際に移住された方)も増えてきているように感じます。

 

一方で、日本国政府としてもその流れに網をかけるべく動いています。平成27年度税制改正で創設された国外転出時課税制度(国税庁ウェブサイト 外部)がその例ではないでしょうか。

 

例えば株式などを保有している場合、非居住者になってから売却すると日本で売却益が課税されないケースがありましたが、そのような課税逃れを防ぐ制度です。

 

日本の非居住者になることで日本での納税が少なくなる(又はなくなる)ために移住する、それに対抗する税制が創設される。そのような流れが続くのでしょう。